甘いペットは男と化す
 

「お気をつけておかえりくださいませ」


打ち合わせが終わった相手が、フロントの前を横切ると同時に、立ち上がって頭を下げた。

ようやくもうすぐ定時を迎える。
なんだか今日は、一日が長く感じた。


「先輩、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「え?そう?」
「はい……。血色なくなってますよ」
「え……」


言われて、手元にあった手鏡で自分の顔を見た。

確かにそこには、チークで頬は多少ピンク色になっているものの、決して健康な肌色とは言えなくて……。


「いわれてみれば、さっきから頭も痛いんだよね。妙に寒いし」
「えー!それ、絶対に熱出てますよ」
「マジか……」


言葉に出されると、余計に具合の悪さが悪化する。

気づかなければよかった……。


「早退します?」
「あと30分くらいだから大丈夫だよ。残業はさすがに出来ないけど」
「わかりました。あまり無理しないでくださいね」
「ありがと」


菅野ちゃんが、隣で心配そうに声をかけてくれて、笑顔で答えた。


でも具合は悪くなる一方で……。


30分という時間が、今日ほど長く感じた日はなかった。
 
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