甘いペットは男と化す
 



「……り……朱里」

「ん……」


誰かが自分を呼ぶ声。
その声に気が付いて、閉ざされていた視界をゆっくりと開けた。


「朱里、大丈夫か?」
「あ…つし……?」


そこにいたのは、もう二度と会うことはないと思っていた、元彼、淳史の姿。


「なんで……勝手に部屋に入って来てるの……」
「なんでって……。合鍵を渡したのはおまえだろ。
 それに何をいまさら」


一言会話をして、妙な違和感を覚えた。

辺りを見渡しても、そこは自分の部屋で……


あ、れ……?
何かが足りない。


「朱里。ごめんな、ずっと会えなくて……。
 熱にも気づかないなんて、俺は彼氏失格だ」

「何言ってるの……。
 仕事だったんだから、仕方ないでしょ」


少しずつ消え去っていく、頭の中のモヤモヤ。

あたし、淳史にたいして、何か重要なことを忘れてる気が……。


「でももう離れないから……。
 朱里が元気になるまで、ずっと傍にいるよ」


そう言って、淳史はぎゅっとあたしの手を握った。
 
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