甘いペットは男と化す
 
「泣いてなんか…いないよ……?」


もしかして、夢を見ながら泣いてしまったんじゃないかと思ったけど、頬には冷たい感触なんかない。
だから涙をこぼしているというわけでもない。


「泣いてる。心が」

「泣いてないって!」


思わず、声を荒げてしまった。


きっとケイの言っている言葉が、図星に感じたからかもしれない。

心が泣いてる……
そんなわけない。


「ほんと……大丈夫だから」


声を荒げてしまったことに後悔し、今度は小さな声で言い捨てると、ケイに背中を向けた。


お願いだから、これ以上優しい言葉をかけないでほしい。
じゃないと、必死になって抑え込んでいるものが、零れ落ちてしまいそうだから……。


「…っ」


なのに、冷たい冷気を感じたと思ったら、ふわりと背中を包み込むような温もりがあたしを襲う。

お腹には、一回り大きい手のひらが、あたしをぎゅっと引き寄せていて……



「な、にやってんのっ……。
 布団の中に入ってきちゃダメだって言ってるでしょっ……」


「ダメ。今は強がらないで」



後ろから抱きしめてくるケイを突き放さそうとしたのに、凛とした強いその声に何も言い返せなくなってしまった。
 
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