甘いペットは男と化す
6章 記憶の欠片
「寒い……」
約束通り、朝になると、あたしたちは電車に乗って一番行きやすい海へと来ていた。
行きやすいと言っても、特急電車等を乗り継いで、2時間以上かかる。
ようやく海に着いて、浜辺に着いたものの、海風は容赦なくあたしたちを襲った。
「あー寒すぎ、やばい、無理かも」
「アカリ、震えすぎ」
「だって!これヤバイでしょ!」
海風からの寒さは、ハッキリ言って尋常じゃない。
都心の寒さとはわけが違った。
「でもどう?何か掴めそう?」
「んー……どうだろうなぁ……」
肝心のケイは、海に着いたけどとくに顔色が変わることはなくて……。
海をぐるっと見渡し、首をかしげるだけだった。
やっぱ、そんな来た瞬間に思い出すものじゃないよね……。
漫画みたいに、パッとひらめけば…なんて思ったけど。
だけどケイは、まだまだこの場にいたいようで、一人波のほうへと向かって行く。
あたしはさすがにそれ以上、水に近づくなんて無理で、遠ざかろうとするケイの背中に声をかけた。
「ケイ!あたし、向こうの自販機で、温かい飲み物買ってくるね。
ケイは気が済むまでここにいていいから」
「うん。分かった」
ケイは振り向いて頷くと、また一人で歩を進めた。