甘いペットは男と化す
「アカリ……」
「うん?」
帰りの電車の中、ほとんど人の乗っていない座席。
間に置かれた二人の手は、しっかりと握られている。
「さっきさ」
「うん」
「何か、思い出しかけたんだ」
その言葉に、伏せていた視線をケイへと向けた。
だけど、記憶を思い出しかけたというのに、そこには浮かない表情のケイがいて……
「どうしたの?よかったじゃん」
「うん……」
ケイの瞳は、伏せられたまま……。
その真意が掴めない。
「はっきりとは分からないんだけど……
なんだか思い出したくない記憶のような気がしたんだ」
「……そっか」
その事実が分からない。
ケイは、記憶を消し去りたいがゆえに、記憶喪失にでもなったのだろうか……。
でも確かに、さっきのケイは小刻みに体が震えるほど、何かに怯えているような気がした。
もしかしたら、体がその記憶を拒否しているのかもしれない。