甘いペットは男と化す
 
忘れかけていた声。

条件反射のように、名前を呼ばれたほうへ振り返った。

そこにいたのは……



「あ…つし……」



もう二度と会うことはないと思っていた、元彼淳史の姿だった。


「なんで……」


途端に思い出される、熱でうなされてた時に見た、淳史との甘い夢を……。
消えていた淳史への想い。


「朱里ともう一度話したくて……」
「あたしは話すことなんて何もないよ」


同時に思い出されるのは、あの日出逢ったもう一人の彼女。


ふわふわとした若い女の子。
あたしに勝ち目一つない可愛い子。


「俺はっ……」

「アカリ」


淳史が何か言おうとしたところで、遮るようにケイがあたしの名前を呼んだ。

ハッとして、淳史も一緒にケイのほうを見る。


「話したくないんだったら、おいで?
 一緒に帰ろう」

「……」


優しい声なのに、その瞳は笑っていなくて、なんだか少しだけ恐怖も感じた。

だけど今は、淳史と話す勇気なんてあたしにはなくて、差し出された手に自分の手を重ねる。
 
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