甘いペットは男と化す
「お先失礼しますー」
久しぶりに少しだけ残業をしてから、フロアの人たちに挨拶をしてオフィスを出た。
エントランスから、すでに少し寒い。
今日もさっさと足早で帰ろう。
そう思って、外へと続く自動ドアが開いたところだった。
「朱里!」
その声を聞いて、体がビクッと震えた。
また聞いてしまった。
もう二度と聞きたくない声。
分かり切っているその声の主に、あからさまに嫌な顔をすると、その方向へと振り返った。
「淳史……。何?」
「話がある」
昨日と全く同じ言葉。
あたしは、ないと言ったはずだ。
だけどそれでも今、こうやって会社の前で待ち伏せされているということは、きっと淳史は、あたしが話をするまで毎日来るかもしれない。
それは余計にめんどくさいと思い、ため息を吐くと口を開いた。
「分かった。すぐそこのカフェでいい?」
「ああ」
あたしは、淳史と一緒に、会社の裏にあるカフェへと入った。