甘いペットは男と化す
 
平日の夜に、カフェに行く人は少なく、店内は空いていた。

コーヒーだけ頼むと、一番奥の席を選んで座る。


寒さで冷えた体に、温かいコーヒーが染み渡った。


「それで、話って?」

「俺と、もう一度やり直してほしい」


なんとなく、予想していた言葉。

だけどその言葉に、なんのゆらめきもこない。


「無理。そもそも、どうして今さら?
 一週間も放置してたくせに」


淳史の二股現場を目撃してから、丸一週間以上経った。

あの決定的な場面を見てしまったからこそ、あたしはもう淳史とは終わったと思っているけど、思えば別れ話すらしていない。
だけどこの一週間、音沙汰無しだったということが、それを物語っていると受け止めていた。


「それはっ……向こうと別れるの手間取って……。
 だけどもうちゃんと別れてきたから。これからは朱里だけを愛す」

「……無理だよ…。
 あたし、一生あの日のことが頭の中から離れないと思うから……」

「そんなこと、忘れるくらい愛す!
 俺はっ……俺は朱里と結婚したいんだ」

「……」


どうして、今になってそんな言葉を聞いてしまったんだろう。


夢にまで見てしまった、淳史からのプロポーズ。

あたしだって、あの日二股されているなんて知らなければ、淳史と結婚するものだと思ってた。


だけど……


「ごめん……」


もうあたしの中に、淳史との結婚という未来は存在しない。
 
< 81 / 347 >

この作品をシェア

pagetop