甘いペットは男と化す
平日の夜に、カフェに行く人は少なく、店内は空いていた。
コーヒーだけ頼むと、一番奥の席を選んで座る。
寒さで冷えた体に、温かいコーヒーが染み渡った。
「それで、話って?」
「俺と、もう一度やり直してほしい」
なんとなく、予想していた言葉。
だけどその言葉に、なんのゆらめきもこない。
「無理。そもそも、どうして今さら?
一週間も放置してたくせに」
淳史の二股現場を目撃してから、丸一週間以上経った。
あの決定的な場面を見てしまったからこそ、あたしはもう淳史とは終わったと思っているけど、思えば別れ話すらしていない。
だけどこの一週間、音沙汰無しだったということが、それを物語っていると受け止めていた。
「それはっ……向こうと別れるの手間取って……。
だけどもうちゃんと別れてきたから。これからは朱里だけを愛す」
「……無理だよ…。
あたし、一生あの日のことが頭の中から離れないと思うから……」
「そんなこと、忘れるくらい愛す!
俺はっ……俺は朱里と結婚したいんだ」
「……」
どうして、今になってそんな言葉を聞いてしまったんだろう。
夢にまで見てしまった、淳史からのプロポーズ。
あたしだって、あの日二股されているなんて知らなければ、淳史と結婚するものだと思ってた。
だけど……
「ごめん……」
もうあたしの中に、淳史との結婚という未来は存在しない。