甘いペットは男と化す
 
真っ直ぐと瞳を捕えて答えるあたしに、淳史はもうそれ以上何も言わなかった。


解かれた腕。
一歩下がって、もう一度小さく「ごめんね」とつぶやいた。


泣きたくなるほど胸が痛くなったのは、やっぱりあたしも淳史のことが好きだったから。

でも今言った言葉に、嘘はなくて……
好きとか恋愛感情とか、今はそんなのどうでもいい。


今あたしが傍にいたいのは……



「あ、おかえり。アカリ」



玄関を開けると、パタパタとしっぽが見えるほどの笑顔で迎え入れてくれる男の子。


「どうしたの?走ってきたの?」


言われて気が付いたのは、あたしの息は声を発するのが難しいほど切れているということ。

ケイは心配そうに近づいて、ただ息継ぎをするだけのあたしをじっと見つめる。


「変な男に追いかけられた?
 これから駅まで迎えに行こうか?」


何も話さないあたしに、ケイはただうろたえるばかりで、そんなケイを見て、心から愛しいと思った。


「アカリ?」

「…っ」


あたしはたまらず、ケイに抱き着いた。
 
< 85 / 347 >

この作品をシェア

pagetop