甘いペットは男と化す
その笑顔は、やっぱり痛々しくて……
思い出しかけた記憶に、何か関係しているのはすぐに分かった。
だけどまだ、あたしがその域に踏み込んではいけないみたいで
話してくれないと思うと、無性に悲しくなった。
「アカリ?」
やりきれない思いから、ケイから目を逸らして再びマグカップを口に運んだ。
だけどケイが、少しだけ顔を近づけて名前を呼んでくる。
「何?」
「怒ってる?」
「べつに」
怒ってなんかない。
ただ……
悲しいだけ。
「アカリ」
「あ……」
ケイはあたしからマグカップを取り上げると、再びテーブルの上に戻してしまった。
代わりにあるのは、目の前でじっと見つめる大きな二つの目。
「ちゃんと全部話せなくてごめんね。
でも俺さ……」
まるで、あたしのほうがあやされているみたいで、いつもの上下関係が逆転している気分。
ケイはあたしの髪をすくうと、愛おしそうにその髪をなでる。
「記憶……。
戻らなくてもいい、って思ってんだ」
それは、予想外の言葉だった。