甘いペットは男と化す
 
「どうして……?」


記憶がないのは、ケイが今、一番恐怖を感じる部分のはずだ。

過去がないように感じて、
自分が何者かも分からない。

だから怖くても、記憶が欲しいと思うのは当然で……。



「俺には、アカリがいてくれれば十分だから」



ふわりと微笑んだ顔は、決して強がりなんかに見えなくて、
心からそう感じているほど、穏やかな微笑みだった。


「で、も……」

「過去を知ることで、アカリを失うかもしれないのなら……俺は記憶なんかいらない」


ケイの過去に、何があったのかなんて想像つかない。

あの海での出来事で、ケイがいったい、何を思い出しかけたのかなんて……。

でもそれを思い出すことで、あたしとケイのこの関係は崩れてしまうのだろうか。



「記憶よりも、アカリが何より大事だよ」



人生で、一番の告白を受けた。
 
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