甘いペットは男と化す
「入ってみる?」
「……でも…」
「大丈夫だよ。ちゃんとあたしもついているから」
「……うん」
入ることにためらったのは、きっと記憶を取り戻すことに、少し恐怖を感じているから。
なぜだか分からないけど、記憶を取り戻したら、あたしを失うかもなんて思っている。
だけどそんなことはありえない。
あたしがケイの傍を離れることがないから。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、寒さからいっきに包み込まれるような温かさ。
「お二人様ですか?こちらへどうぞ」
若いウェイターさんに案内され、窓際の席へと着いた。
内装も、いたるところにクローバーがあって、女子が好きそうな可愛らしいデザインだった。
ぐるっと辺りを見渡すと、カップルよりも女同士のほうが多い。
「どうしよっか。このあと夕飯だけど、せっかくだからケーキとか食べちゃう?」
「……」
メニューを広げると、おいしそうなケーキの写真が並んでいて、少しテンションが上がった。
だけどそれにたいして、何も返事が返ってこない。
不思議に思って顔を上げると、ケイは店の中をじっと見渡している。