婚約者はホスト!?②~愛が試される時~
6年振りの芹香は、昔のように俺の胸へと飛び込んできた。
『圭ちゃん…。ずっと忘れられなかった…。』
車の中で、肩を震わせながらしがみつく芹香を俺はそっと引き離した…。
『ごめん…。俺 結婚したんだ…。だからもう俺のこと忘れて欲しい…。』
そう言うと、芹香は涙をこらえるように笑みを浮かべてこう言った。
『うん わかった…。でも もう少しだけ好きでいさせて。ちゃんと諦めるから…。』
俺はそれ以上、芹香を拒むことが出来なかった。
本当はこの時 もっとちゃんと突き放すべきだったと思う。
日に日に増していく芹香の暑い視線に、俺は自分の弱さを後悔する。
営業室の時計は、10時を少しまわったところだった。
「あと もう少しだね…。」
芹香の声に、俺は手を止めた。
「そうだな。あとは俺ひとりで大丈夫だから、芹香はもういいよ。ありがとな。タクシー呼んでおくから…。」
「でも…」
芹香がそう言いかけた時、ポケットの中で俺の携帯が鳴りだした。
「なつ?」
急いで携帯に出ると、聞こえてきたのは男の声だった。
「あの 松井と言いますが…。なつさんのご主人ですか…?」
ああ なつの同期の…。
でもなぜ なつの携帯に…?
「そうだけど… 何かなつにあったんですか?」
俺は慌てた声で聞き返す。
「いや それが…。」