誘惑したい上司の条件〜真島果穂になりたくて〜
「なんでこっちを見ない?」
そう言われて
音を立てて唾を飲み込んだあと
ゆっくり
顔をあげた。
視界に飛び込んで来たのは
疲れた顔と不貞腐れ顔をコラボさせながらドアにもたれかかり
両腕を組んで私を見ている
真島課長だった。
「…うそ?」
驚いて目を見開いた私の反応が、真島課長の期待通りだったのか
彼はようやく口の端だけ上げて笑うと
ツカツカと私のもとへと歩いて来た。
私は立ち上がることもできずに、椅子に座ったまま
憮然とした表情で私を見下ろすその顔を黙って見上げた。
「課長…向こうの仕事は…?」
「今日は早く終わらせて、高速飛ばして戻ってきた。
その理由は?」
そんな事を急に聞かれても私が分かるはずもない。
「忘れ物を…取りに来たんですか?」
そう、さっき確かに真島課長がそう言っていた事を思い出しながら
笑わない彼に
私も…なんだか真剣に答えていた。