愛は時として狂気と化す
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朝は、嫌いだ。
否、正しくは、明るいのが嫌い。
もっと正すと、明るいのが『怖い』のだ。
わたしは、暗所恐怖症ならぬ
明所恐怖症なのだ。
その代わり暗いところが、異常なくらい好き。
自室でも、勉強や読書以外は夜も電気を消しているし
お風呂でも明かりは点けない。
小さい頃から暗いところばかりが好きで
一度、男の子の悪戯で物置に閉じ込められたとき
泣き喚くどころか、嫌に安心してしまって、気が付くと眠っていた。
周りから見ても、自分から見ても、わたしは『変な子』なのだ。
「そんなことない。
瑠美は普通だよ。ただ、凄く綺麗なとこは、皆と違うけどね」
わたしの隣に座る灰くんは、クールな表情を崩さず、言った。
「普通…ではないわ」
わたしは溜め息混じりに返した。
「お嬢様、灰さん、お車のご用意が整いました」
まだ歳の若い執事が、部屋の戸を丁寧に開け、言った。
この家にいる、両親と、灰くん以外の人間は
わたしを『お嬢様』と呼ぶ。
わたしには『百城 瑠美』という名があるのに
執事やメイドは、決して名前で呼ぼうとはしない。