愛は時として狂気と化す
「灰くんが愛してくれているのは
自分を飾ったわたしよ」
『本当のわたしなんて、興味ないと言いたいの?』
「灰くんは…本当のわたしを見て、また好きといってくれるかしら?」
『…』
わたしは、鏡の中で顔を歪める自分をじっと見た。
――綺麗なんかじゃないわ。
――こんな…化け物みたいなわたし
わたしじゃない。
「お嬢様…遅刻いたします」
初老の執事が、ドアの向こうで柔らかい物腰で言った。
「今日は調子が悪いの。
わたしは休むから…灰くんを送っていってあげて」
「……かしこまりました…」
わたしは、ドアの向こうに人の気配がなくなると
部屋を出て、自室に入った。
黒塗りではないけれど、やはり家具がモノクロの部屋。
そこから椅子と電気スタンドを持ち出すと、また黒塗りの部屋に戻った。
再び鏡に目をやると
そこに映っていたのは醜い自分の姿。
さっきはたいして目に留めなかったけど…
髪はボサボサだし、目は充血してるし…
これじゃ本当に化け物だ。
「…こんな…醜いわたし………映さないでよぉ…!!」
わたしは手に持っていた椅子で鏡を割った。