~keyring~
出会い
【もうそろそろかな…】

時計の針は13時。

彼女は、いつも同じ時間に店に来る。

~カラン~

店のドアから乾いたベルの音がして振り返ると、Tシャツにデニムのラフな格好。

いつもの指定席は窓際の席。

茶色に染まった肩までの髪を耳に掛けて、携帯を片手に頼むのは決まってアイスコーヒー。

見た目は少し冷たそうだけれど

『お待たせしました』

「ありがとう」

アイスコーヒーを運んで行くと、優しい笑顔で僕に笑ってくれる。

仕事なのか、たまに鞄から数枚の白い紙を取り出しては、うーんっとペンをクルクル回している。

ガヤガヤと女の子達が笑い合う店内で、一人だけの彼女は凄く目立っていた。

アイスコーヒーを飲み干してから数分後、彼女は店を出る。

その間、約30分。

毎日見るから、もう覚えた。

【何してる人だろう?】

レジから見送って、彼女が座っていた席へ空になったグラスを下げに行くと…

【あ、携帯…】

テーブルの上に、可愛らしいクマのキーホルダーが付いた携帯が置いてあった。

慌てて店の外へと飛び出したけれど、居るはずもなくて…

【困るだろうな…】

そう思いながら、左手に握り締めた携帯をエプロンの中へしまおうとした時…

「すいません!」

突然の大きな声に驚いて、顔を上げるとそこにはさっきの彼女がいた。

「あのっ、携帯…、携帯忘れちゃって…」

よほど急いで走って来たのか、肩で息をしながら苦しそうだ。

『これ…ですよね?』

しまおうとしていた携帯を彼女に見せる。

「良かったー!」

呼吸を整えながら、両手で携帯を挟む様に受け取り

「ありがとうね。また明日」

ニコッと笑って帰って行く後ろ姿は、僕が想像していた人物像とはかなり違って、可愛らしい女の子の様だった。


この時、何故か少しだけ彼女に近付いた気がした。


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