ざわり
ヒトメボレ
いつものように仲間と学食に向かい、いつもの席を取る。今日のランチ、通称『キョウラン』を選び、席に着くところまではいつも通りだった。
ふと前を向けば談笑してる学生が三人。俺の正面に座った特別かわいいわけでもスタイルがいいわけでもない、ただ笑った顔がきれいな彼女に見惚れてしまった。
「おいタクヤ、どうしたんだよ」
友人にそう言われハッとする。
「わり、ぼーっとしてた」
見惚れてた?俺が??
女には不自由したことはない。そこそこの顔面とスタイルの持ち主だと自負しているため、自分から求めなくてもあちらから寄ってきた。そんな俺がたいしてかわいくもないあの女に見惚れてたなんて信じたくもない。
そんな葛藤も知らず彼女たちは談笑を続ける。そんなに中身のない話をしているのだろうが、ずっと笑っている彼女から目が離せなかった。
きれいに笑う。あんなに素直に、そして無邪気に笑う大学生を見たことはなかった。
ふいに彼女がこちらに視線を向け、目と目が合う。ドキッとした。見ていたことを知られるのがいやですぐに視線を変えた。胸がザワリと鳴った。鼓動がとても速い。その瞬間、俺の心は彼女のことを知りたい気持ちでいっぱいになった。理由を考える必要もない。そしてその理由に気づきたくない。
いつだったか、恋に落ちるとはふたりで落ちるものと聞いた。たぶん俺はいま、彼女に一目惚れをした。これから彼女と知り合いになって、恋に落ちることができるだろうか。そんな不安とワクワクを胸にいまはただ彼女の笑顔を見ていたい、そう思った木曜の午後。
【完】