まどわせないで
 わざと、相手の心をかき乱す声音で問いかける。蜂蜜のようにとろりと甘い声に、絡めとられた小麦が体を震わせる。欲望にしっとりと濡れた瞳が、とろんと陸を見上げた。

「俺が欲しいのか?」

 低く掠れた声が、誘惑するように小麦の心を惑わせる。魅力的な声がだされる口元に自然と視線が向く。
 ギシッとベッドを軋ませて、陸が身を乗り出してきた。

「それにしても、お前ほど色気のない女も珍しい」

 その発言に、霞がかっていた小麦の頭が動き始める。

「地球上に大麦とふたりきりで残されても、抱くきにはならないだろうな」

 小バカにした表情に、小麦が我に返った。苛々が込み上げてきて、とっさに枕に手を伸ばし、陸に向かって投げる。

「やめろ」

 迷惑そうな表情で難なく枕を交わした陸が、舌打ちをする。小麦は構わず、ベッドに乗り上げてもうひとつの枕を陸に投げつけた。

「やめろ!」

 ぼふん、と音をたてて陸の顔に当たる。やった! 当たった。喜びもつかの間、陸が飛びかかってきた。ベッドの上で揉み合いになる。

「離して……っ!」

「調子に乗るな」

 小麦より大きい陸に勝てるはずもなく。押し倒されて、両手を拘束された。拘束された手は陸の大きな片手に易々と持ち上げられ、小麦の頭の上に固定されて身動きが取れない。陸はベッドに空いている片方の肘をつけ体を支えていたが、その大きな体は小麦の上にのしかかるように密着していた。男らしい硬い体だということが、服を通しても伝わってくる。
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