まどわせないで
 しばらく飽きることはなさそうだ。
 さて、どう料理してやろうか?

「あ」

 思い出したように呟く陸に、小麦はぼんやりした頭で顔を向ける。

「お前、バージンだっけ? バージン相手じゃ参考にならないか。大人女性向けのシチュエーションCDなんてお前には早かったな」

 大人女性の部分を強調して首を振ってわざとらしくため息をつく。そのいかにも残念そうな姿に、腹が立った。

「だから! バージンじゃないっていってるでしょ!?」

 体の熱も落ち着いてきたのか、意外としっかりした声で返せたことにホッとした。

「男経験の数は?」

「いう必要ないと思います」

 きっぱりとした口調で反論した小麦は、あらためて陸を見て、その様子に唖然とした。

「なんで、わたしのご飯食べてるの?」

 普通にテーブルについて、小麦の箸を使い、肉じゃがを口に放り込んでいる。

「お腹空いたから」

 そんな返答期待したわけじゃないんですけど?
 大きな手で小麦の小ぶりなご飯茶碗を取り、もぐもぐと口を動かしている。まるで、当たり前のように。
 確かさっきは、料理を前にして嫌そうにしてなかった?
 勝手に夕食に手をつけられても、陸が食べているのを奪うほど、けちな人間ではない。苛々をため息と共に吐き出し、ドスドスと乱暴な足どりでキッチンヘ向かう。別の食器にご飯と味噌汁、テーブルの少なくなった肉じゃがは量を足して座った。
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