まどわせないで
「ごちそうさま」

 食べ終わった陸が立ち上がる。
 このひと、俺様なくせに、食べ終わったあとの挨拶はきちんとするんだよね。自分勝手なひとだけど、そこは律儀なんだな、と小麦も感心していた。

「あ、如月さん」

 思わず呼び止めてしまった。陸は玄関に向かう足を止めて、なんだ? というように小麦を見る。
 所詮他人のわたしが、詮索するようなこと聞いたら気分を害しそう。小麦はためらった。

「なんだ」

 呼び止めたものの、躊躇っている小麦に対し、神経質そうに眉間を寄せている。
 どうしよう。このままなんでもないです、とかいっても怒りを買いそうだから、ここは思い切って聞いてみよう。小麦は覚悟を決めた。

「如月さんって、うちでご飯食べたあと、どこかへ出掛けてるんですか?」

「………」

 どういうつもりで聞いたのか? 陸は、心の奥まで見透かすような瞳で小麦を見る。

「なんだ。気になるのか?」

「いつも、うちの玄関出てからおうちに戻ってないみたいだったから、ちょっと気になっただけ。ものすごく気になるとかじゃないので、やっぱりいいです」

「確かに……家に戻るのは真夜中だな」

 顔をあげて、フムと自分の生活を振り返る。
 夜中? どうりで生活感ないわけだ。夜中に如月さんが帰ってきた頃、わたしは夢の中だ。音がしたとしても聞こえない。

「じゃ、明日な」

「あ、はい」

「女のとこ行ってくる」

 パタン。
 玄関のドアが閉まった。
 最後に意地の悪い笑みを浮かべて。
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