まどわせないで
足元を見ていた小麦はハッとして顔をあげる。見知らぬ男性だ。
「君、ひとり?」
誰? 茶髪にピアス。ビジネススーツを着くずした、いかにもチャラい系の男だ。身長は、パンプスを履いた小麦と同じくらいか、少し低いくらい。
小麦は左右を見渡し、他にひとがいないので、どうやら自分が話しかけられていることに気づく。
「あー……はい、ひとを待ってます」
「待ち人来ず、ってやつ?」
先に来ただけなんだけどな。心のなかで冷静に返事をする。
ニヤニヤと、その軽い笑いかたが、あんまり好きになれなかった。
「それにしても、君、綺麗だね」
じろじろ上から下まで、舐めるような視線に鳥肌が立つ。
「ど、どうも……」
相手が誰であれ、綺麗なんていわれたのは久しぶりだ。このひとは、とりあえずわたしを女性として見ている。
最近、わたしが女だということを、ついうっかり忘れさせてくれるひとが身近にいるおかげで、傷ついてカサカサになった心は、こんな軽いひとの誉め言葉でも、ちょっと潤った。
「これからディナーでも、一緒にどう?」
身を寄せてくる男に、小麦は身を引いた。
「あの、先約あるんで付き合えません。ごめんなさい」
「なんだよ、つれないなぁ」
更に身を寄せてくる男。それ以上、関わりたくなかったので、小麦は逃げようと身を翻した。
「待てよ!」
逃げるつもりが、手首を掴まれて身動きが出来なくなる。
「君、ひとり?」
誰? 茶髪にピアス。ビジネススーツを着くずした、いかにもチャラい系の男だ。身長は、パンプスを履いた小麦と同じくらいか、少し低いくらい。
小麦は左右を見渡し、他にひとがいないので、どうやら自分が話しかけられていることに気づく。
「あー……はい、ひとを待ってます」
「待ち人来ず、ってやつ?」
先に来ただけなんだけどな。心のなかで冷静に返事をする。
ニヤニヤと、その軽い笑いかたが、あんまり好きになれなかった。
「それにしても、君、綺麗だね」
じろじろ上から下まで、舐めるような視線に鳥肌が立つ。
「ど、どうも……」
相手が誰であれ、綺麗なんていわれたのは久しぶりだ。このひとは、とりあえずわたしを女性として見ている。
最近、わたしが女だということを、ついうっかり忘れさせてくれるひとが身近にいるおかげで、傷ついてカサカサになった心は、こんな軽いひとの誉め言葉でも、ちょっと潤った。
「これからディナーでも、一緒にどう?」
身を寄せてくる男に、小麦は身を引いた。
「あの、先約あるんで付き合えません。ごめんなさい」
「なんだよ、つれないなぁ」
更に身を寄せてくる男。それ以上、関わりたくなかったので、小麦は逃げようと身を翻した。
「待てよ!」
逃げるつもりが、手首を掴まれて身動きが出来なくなる。