まどわせないで
 インターホンの音に飛び上がる。
 やだ。となりのひと?
 お、怒ってたらどうしよう。

 立ち上がった小麦は、出るべきかでないべきか悩み、玄関と居間の間をオロオロといったり来たりしている。
 そうしている間にも、再びインターホンが鳴った。
 ああっもう!
 自棄になった小麦はインターホンの通話ボタンを押した。

「……は、はい」

「となりの如月です」

 あれ? こんな声だった?
 前回聞いたがさがさ声とは全く違う声が聞こえてきた。
 インターホンから聞こえてきたのは、まろやかなコクのある甘い声。そう、例えるなら甘い蜂蜜のような。
 どうやら如月さんの風邪、治ったみたい。
 気になっていたぶん、元気そうな声にホッとした。

「夏野さんでしたっけ?」

「は、はい。なんでしょう」

「大きな物音が聞こえたもので、どうしたのかと思いまして」

「あ、いえ、その、何でもないです。如月さんが生きてるのか心配になったもので」

「心配になったもので?」

 甘い声に催促されて、まるで誘導されるように勝手に口か動いた。

「ラーメン食べる音を聞いてたら、蚊が現れまして。バン! としてしまいました。ごめんなさい」

「……ラーメン?」

「ずずずっと食べてましたよね? ラーメン。美味しそうに」

「ラーメン」

 あれ、なんか気まずいこといったのかな?
 甘い声が急に冷たくなったような。

「ちょっと出てきてもらえますか?」

「えっ……」

 な、なんか怖い。
 出ていったらなにされるかわかったものじゃない。

「い、いません。出かけてます」

「……いるだろ。出てこい」

 いや、なんか物凄く怖いんですけど?
 口調がガラリと変わり、NOといわせない雰囲気が伝わってきた。
< 4 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop