まどわせないで
 そっと押し付けるような、優しいキス。ゆっくり離れた唇が、角度を変えて押し付けられる。今度はもう、驚くことなく目を閉じて身を任せた。
 肩を抱いていた片方の手はうなじを支え、もう片手は背中を滑り、腰に辿り着くと俺のものというように、腰を引き寄せる。大きな男らしい硬い体に包まれて、香水だろうか? 柑橘系の爽やかな香りと如月さんの香りが混じりあった、いい香りが鼻腔をくすぐる。
 小麦の唇をかすめながら陸の動く唇。

「呼吸」

 キスに気をとられていたのが悟られていたのか、小麦の唇の端に唇を移動させた陸が思い出させる。

「ん……はい」

 リラックスした状態でキスを受けたからだろうか? 思ったよりも力まず、キスの合間に呼吸をすることができた。

「そうだ……それでいい」

 誉められて嬉しくなった。
 鼻呼吸することで息苦しくない。これならいつまでもキスをしていられる。
 自分の唇に触れる、他人の唇。久しぶり柔らかな感触は、不思議と不快感もなく、心地よかった。


 でも、どうしてわたしは如月さんと、キスしてるの?
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