まどわせないで
心に響くようなしっとりとした声がかかるまで、自分に近づくひとの存在に気付かなかった。
声の主を見ると、グレーのフロックコートを着こなしたお洒落な男性が、穏やかな微笑みを浮かべて立っている。40歳前半くらいだろうか? 意思の強さが表れている鋭い瞳の素敵な大人の男性だ。
「あの……」
「ああ、これは失礼。いちよう今日の主役の長谷川祐司、長谷川プロダクションの社長です。よろしくね。仕事関係のひとたちも大勢来ているから、挨拶回りをしていたら君を見つけてね」
主役ということは、陸の声優事務所の社長さんだ。慌てて頭を下げる。
「存じ上げず、ごめんなさい」
社長さんはいやいや、と気にしていないように笑顔のまま首をふる。
面と向かい合って、とんでもないことに気付いた。
「すみません。誕生日パーティーなのに、わたし手ぶらで……」
「いやいや、気にしないで。誕生日という名の親睦会みたいなものだから。気楽に、ね?」
「ありがとうございます」
聞いているだけで癒されるような優しい声と微笑みに釣られて、小麦も社長に笑顔を返す。
「君は陸が連れてきたひと、かな?」
声の主を見ると、グレーのフロックコートを着こなしたお洒落な男性が、穏やかな微笑みを浮かべて立っている。40歳前半くらいだろうか? 意思の強さが表れている鋭い瞳の素敵な大人の男性だ。
「あの……」
「ああ、これは失礼。いちよう今日の主役の長谷川祐司、長谷川プロダクションの社長です。よろしくね。仕事関係のひとたちも大勢来ているから、挨拶回りをしていたら君を見つけてね」
主役ということは、陸の声優事務所の社長さんだ。慌てて頭を下げる。
「存じ上げず、ごめんなさい」
社長さんはいやいや、と気にしていないように笑顔のまま首をふる。
面と向かい合って、とんでもないことに気付いた。
「すみません。誕生日パーティーなのに、わたし手ぶらで……」
「いやいや、気にしないで。誕生日という名の親睦会みたいなものだから。気楽に、ね?」
「ありがとうございます」
聞いているだけで癒されるような優しい声と微笑みに釣られて、小麦も社長に笑顔を返す。
「君は陸が連れてきたひと、かな?」