まどわせないで
「ふむふむ。で、お付き合いした方は何人いるのかな?」

「……!?」

 想像を遥かに越えた問いかけに、息を飲んだ小麦は蒸むせた。咳き込みながらお皿とフォークは落とさないようにテーブルの上に置く。社長が近づいて、背中を優しくトントンしてくれる。

「あのっ、ありがとうございます、だ、大丈夫です」

 頭を下げ、過去を聞きだそうとする社長からじわじわ離れる。
 いままでわたしの過去を知ろうとした男のひとなんてほとんどいなかったのに、どうして最近根掘り葉掘り聞こうとするひととばかり出会うのだろう?
 初対面のひとに話すような内容ではない。
 話す義務はない。

「あの、それって必要なことですか」

 不愉快を感じていることを隠そうともしない小麦に、社長は苦笑いを浮かべた。

「ごめんね。嬉しかったから少し込み入ったことまで聞いてしまった」

「……?」

「いままで彼女を連れてこいって何度いっても連れてこなかった陸が、はじめて連れてきたのが君だったから」

 そういって、いまだに向こうで女性とべったりくっついて話す陸を社長は穏やかな表情で眺める。小麦はいまだべったりくっついてるふたりに、険しい表情を浮かべる。
 あの女好きの如月さんが、初めて公の場に連れてきたのがわたし?
 いやいやいや、信じられません。
 口にだしていうのはさすがに失礼だと思い、心のなかで首を傾げる。

「だからつい色々と聞きたくなってしまってね」

「はぁ……って彼女!? 違いますっわたしは如月さんの彼女じゃないです!」
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