まどわせないで
「そういえば、陸が初めてした仕事のシチュエーションCDのサンプルできたって話しだったけど、聞かせてもらってないなぁ」

「えっあんなの聞くんですか!?」

「ってことは……君が持ってる?」

 あ。
 口に手を当て、おもわず返していた言葉に口を閉じる。あんなのっていった時点で、どんな内容なのか知っていると相手に伝えているようなものだ。社長のほうは思い通りの反応をした小麦に満足そうにしている。
 穏やかに笑うこのひとの声は、心のガードを緩める癒し系のボイスだ。油断しているとするりと心のなかにはいってきて、覗かれたくないものまで覗かれてしまう。長谷川祐司は、その声音と、さりげない会話の持っていきかたで、自分の聞きたいことを相手から聞きだす巧みな話術がある。声に騙されてはいけない。このひとは危険だ。

「陸のことだから無理矢理聞かされた、といったところかな?」

 小麦は1回しか聞いていないCDの内容を思いだし、恥ずかしさで居心地悪さを感じながら頷いた。

「彼、一方的なところがあって扱いにくいけど、よろしくね」

 だいぶ一方的ですけど。
 でかかった言葉を飲み込む。

「そうそう。もし、陸に特別な感情をもつことがあったら、自分からアプローチすることは絶対にだめだよ」

「どういうことですか?」

「1+1の正解は、2だよね?」

「……はぁ」

 突然なにをいいだすのだろう、と戸惑いながらも頷く。

「陸にとって正解は1。あいつの答えが2になるのは少しばかり難しいかもしれない」

 これはなぞなぞ?
 首をひねっていると、陸の声が聞こえてきた。
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