まどわせないで
「えーと……昨夜はごめんなさい。その、ありがとうございました」

 冷静に考えてみれば、如月さんが鍵を持っていくのはあたりまえだったのかもしれない。
 酔っぱらって寝てたわたしはちゃんと鍵を閉めることができたか自信ないし、送ってくれた如月さんがうちにずっといるわけにもいかない。
 それにあの如月さんがわたしをベッドに寝かせてくれた。起きたとき、ちゃんとふとんもかけてあった。
 これは、彼の優しさと考えて納得しよう。
 小麦は自分に言い聞かす。
 そう。考えたら勝手に鍵を持っていかれたことも、悪いことばかりではなかったのかも。

「だいたい本鍵と一緒にスペアキーもくっつけてたら意味ないだろ。なに考えてるんだよ? ああ、なにも考えてないからこんなことしてるのか。使わないやつは閉まっとけよ。無くしたら困るのは大麦だからな。まぁ、心優しい俺がひとつ持っといてやるから安心しろ」

 前言撤回。
 勝手に鍵を奪っといてなんでこんなにえらそうなんだろう。

「もしものときのため、だ。早速役に立ったな」

 もしものとき?
 今回の場合、もしものときだったかな。
 わたしはただ考え事に没頭してただけで、別に具合が悪くなって倒れてたとかじゃなかった。もしものときって、急病とかの場合をいうんじゃないの?

「飯、早く。腹へった」

 いいたいことだけいってすっきりすると、陸は慣れた様子で居間のほうへ歩いていく。

「………」

 その背中を見送った小麦は呆然とキッチンに立ち尽くしていた。
 わたし如月さんのなんなんだろう?
 酔っぱらった自分も悪いけど、優しくない! ネチネチ毒吐くし! とにかくやたらえらそう‼
 二日酔いは平気だったのか? とか少しは優しい言葉を投げかけてもいいんじゃないかな!?
 いいたいことは山ほどあるのに、いい返せないのが悔しい!
 憤りに握りしめた拳が震える。頭のなかでは地団駄踏んでいた。

 料理に毒でも盛ってやろうかしら!?
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