まどわせないで
「これ、行くのか?」

 夕食を食べ始めた陸の片手に、同窓会のお知らせの葉書。

「どうしてそれ持ってるの?」

「テーブルの上にあったらいやでも目につく」

 そうでした。
 行くか悩んで、悩んでる間に時間ばかり過ぎるから、テーブルに放った状態で夕飯の準備に取りかかったんだった。

「迷ってるところ」

「迷う理由があるのか?」

 元彼と再会するかもしれないから行くか悩んでるなんて、如月さんにはいえない。
 そんなこと話したら、チャンスとばかりに根掘り葉掘り聞いてくる。絶対に。

「理由はその、色々と」

「会いたいヤツとかいるんじゃないのか?」

「それは、そうなんだけど」

「お前が羨ましいよ」

「羨ましい?」

 陸の呟きに首を傾げる。
 会場はどこにでもあるような小さな居酒屋で、食事もそんなゴージャスなものでもない。昨日みたいな有名ホテルで高級料理が並ぶわけでもない。お酒だってオシャレなグラスにシャンパンなんて出てくるはずもなく、ビールや日本酒、サワーとかハイボールで、居酒屋のよくあるアルコールメニューだ。
 どこに魅力を感じたんだろう。


「役で同窓会のシーンは撮ったこともあるが、あくまでもそれは演技上の演出だ。実際こんな知らせがくるような環境下で育ってないから」

「え?」

 いまの、どういう意味……?

「迷うくらいなら行けよ。この日は俺の夕飯作らなくていいから、行ってこい」
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