まどわせないで
 結局。
 如月さんの過去に気を取られて、行かないともいえず同窓会当日を迎えてしまった。

 仕事が終わったあと、同窓会の会場である小さな居酒屋の前で小麦はうろうろしていた。
 悩みながら向かったため歩く足取りも重く、開始時間はとうに過ぎている。
 本日貸し切りと書いてある看板には、高校の名前とクラスが書かれていた。
 お店へ入れば懐かしい面々との再会が待っている。そして、できれば顔を合わせたくない冬里がいるかもしれないのだ。
 もう少ししたら、中に入る覚悟も出てくるだろうか。
 店からは楽しそうな声が聞こえてくる。
 ちょっとのぞいてみようかな?
 入り口の扉に手をかけようとしたとき、その背中に声がかかった。

「もしかして小麦?」

 自信なさげな探るような声に振り返る。

「あれ、そういうあなたは……杏子ちゃん?」

 名前を呼ばれた相手の顔が輝く。お互いを認め合ったふたりは距離を狭め、手を取り合う。

「そうそう! 杏子よ。懐かしいな~小麦、相変わらずモデルみたいにスラッとしてるね。キレイ!」

「杏子はますますキレイになったよ」

 羨ましげに見上げる杏子は、小麦に比べると遥かに小さい。その身長差に、周りからは親子みたいだとからかわれていた。懐かしさに胸が熱くなる。仲の良かった女の子の友達だ。

「入るところだった?」

「あ、うん。ちょうどきたところ」

 たぶん、入り口で何分もそんなに迷ってなかった。

「タイミングよかったんだね。遅れちゃったし、ひとりじゃちょっと入りづらいなって思いながら歩いてたから、小麦がいてくれて良かったっ」

 片手を胸に当ててホッとしている杏子に頷き、同意した。

「わたしも気後れしてたから同じだよ」

 よかった。仲の良かった友達と一緒なら中へ入っていくのにも心強い。
 いかにも和風の木材で作られた店内へ入っていくと、見覚えのある面々が笑顔で出迎えた。
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