まどわせないで
「ねえ、冬里ますますいい男になってない!?」

「超絶ハンサムじゃない!」

「小麦、元彼が見てるよ! もしかしてもしかすると復活愛とかあるかも!?」

「ないない」

 肩で肩を押してきたり、はやしたてる回りの女子に小麦は苦笑い。
 改めて乾杯の音頭が取られ、冬里の登場にますます同窓会は盛り上がりを見せている。
 いや、なんていうか会ったらどうしようって色々考えたけれど、実際会ってみて拍子抜けした。
 意外と冷静な自分に、過去のひとなんだってことをに改めて気づかされたというか。
 懐かしさは感じるけれど、ただそれだけだった。
 傷ついた言葉まで忘れたわけじゃないけど。
 いま感じるドキドキや不安、緊張や複雑な思いは全部如月さんに持っていかれちゃっているような感じ。
 そういえば如月さん、今日は夕飯いらないっていっていたけれど、どうしたかな?
 外食? それとも、他の女のひとの家でご馳走になってるのかな。
 綺麗な女性と食事を楽しむ陸を思い描き、胸が痛んだ。
 同窓会も皆と会えて嬉しいけど、最近すっかり慣れ親しんだ静かな空間で、如月さんと食べる夕飯が恋しかった。

 お酒が入って男女間の妙な照れ臭さも消えたのか、周りは男女関係なく慌ただしく入れ替わった。小麦は移動はせず、その場で同窓会を楽しみ、冬里のほうもこちらを意識しているのか、近づいてくることもなかった。
 時間は過ぎ、宴もたけなわ、二次会の話しが持ち上がり出した。次はカラオケに行こうという流れになっている。
 皆と久しぶりに会えて満足したし、わたしはこのまま帰ろう。帰る前にお化粧直ししなきゃ。

「ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 周りに断わりを入れて小麦は席を立った。

 これから帰っても、今日は如月さんに会えないんだろうな。
 そんな思いに寂しさを感じつつ化粧直しを済ませてトイレを出ると、ひとにぶつかりそうになった。
< 66 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop