まどわせないで
 一方の小麦は、抗議しようと必死になってもがいていた。
 如月さんたらいきなり酷い!
 フッと体に巻きつく腕が緩み、やっと口が利けると安堵した小麦は自分の体が浮いたことで、今度は悲鳴をあげてしまった。

「きゃっ! ちょ、ちょっと如月さん!?」

 あろうことか、くの字型に肩に担がれた。重さを感じないのか軽々と。暴れる小麦もなんのその、店内を落ち着いた様子で通りすぎていく。

「如月さんやめて! 恥ずかしいから、下ろして」

「………」

 小麦の抗議もむなしく、陸は歩いていく。

「小麦……?」

 唖然とする友達、元クラスメートたち。

「ご、ごめんねっ先帰るね」

 陸が扉を開けて外に出る前に、なんとか謝罪は出来た。
 わたしがいなくなったあと、きっとあることないことウワサされるに違いない。まさかこんな米俵みたいに担がれて店を出ることになるなんて! 小麦は今日の出来事を皆が忘れてくれるように祈った。

「いい加減下ろしてください!」

 文句も陸の耳を素通り。彼は小麦の重さなど感じないように歩いていく。彼が1歩進む度に視界が揺れる。誰かとすれ違う度、驚かれたり二度見されたりして担がれた方は恥ずかしくてしょうがない。通行人と目が合わないように頭を下げた。

「あの、さっき食べたお刺身とビール、逆流しそうです」

「気にしない。風呂に入ればきれいになる」

「わたしが気にしますっ自分で歩けるから離して! わたし、米俵じゃないんだから」

「……米俵」

 やっと止まった。止まったと思ったら陸が肩を震わせて笑いだした。

「ものの例えが面白すぎる」
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