まどわせないで
「コップ」

「コップ?」

 優しく問い返され、コクンと小さく頷く。

「壁にコップくっつけて、それに耳を当てたら聞こえてきたの。あなたが、ラーメン食べる音」

 わたしも、その唇で食べてほしい。耳もとで甘くささやいて。そして、その腕に抱きしめて。
 もっと近くに寄り添いたい。我を忘れた小麦は、本能のままに身を近づける。

「……なるほど」

 呟いた如月の目が冷たく細められる。小麦の顎から指を離してさっと立ち上がった。如月の指に顎を預けていた小麦は、足元に突っ伏しそうになる体を慌てておこし、如月を見上げる。

「なるほど。いい度胸だ。それなりの覚悟は出来てるんだろうな?」

 蔑むような顔で見下ろされ、目をパチクリするしかない小麦の頭のなかはクエスチョンマークでいっぱいだった。

「か、覚悟?」

「盗み聞きしていたのを管理人にいわれたくなかったら、明日つき合え」

 つき合うってどこに?
 っていうか、脅されてる……!?


 翌日。
 わけがわからぬまま、如月にとある場所に強引に連れていかれた。
 男女が利用することで、かの有名なラブホテルとやらに。

 ラブホテル!
 なんで!?
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