まどわせないで
「結果として俺が行かせたようなものだな……」

 呟く陸は同窓会の葉書を見たとき、引っ越した先までこういう知らせがくるほど学校の連中と仲良くやってきた小麦が、本当に羨ましいと思った。
 普通の家庭を知らない陸が学校で感じていたのは疎外感。
 常にクラスメートと陸との間には1枚の分厚い壁が立ちはだかっていた。
 希望を持つことを諦めていたあの頃は、自分からその壁を突き破ろうともしなかった。クラスメートも壁を突き破ってまで踏み込んでこようとはしなかった。学校は居心地の悪い場所だった。いや、あの頃はどこへいようと全ての場所が居心地悪かった。
 だからこそ学校で仲間同士、仲良く過ごすクラスメートに羨望さえ感じたものだ。
 小麦も楽しい学校生活を送っていたのなら、同窓会の知らせは嬉しいはずだろう?
 楽しい時間を過ごしているもんだと勝手に思い込んでいた。

 それなのに、なぜか急に小麦に会いたくなって、記憶のなかの葉書の地図を頼りに向かった。
 そこで待ち受けていたのは、小麦と元彼とのやりとり。無理矢理キスされそうになり必死に抵抗する小麦の姿。馴れ馴れしく小麦に触れる男に、怒りを覚え、その光景を見た瞬間、頭のなかで何かが弾けた。
 あんな器の小さい男に小麦を渡すわけにはいかない。
 勝手に体が動いていた。
 まさか、小麦を苦しめる結果になるとは思いもしなかったんだ。
 あんな表情させるために、同窓会に行かせたかったわけじゃない。
 当事者でもないのに、陸の胸が締め付けれるような痛みに襲われる。

「余計なこといったな。ごめん……」

 絞り出されるようにして発せられたのは、彼なりの謝罪の言葉だった。
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