まどわせないで
 出社した小麦は、午前中は陸のことばかり考えていて、仕事に身が入らなかった。
 お昼を食べ終わり、自分のディスクに座りあることに気づく。
 陸のことにばかり気をとられていたが、同窓会では会費を払わず帰ってきてしまった。
 米俵のごとく抱えられていたため、払う余裕もなかったわけだが。
 時計を見るとまだ1時前。
 小麦はスマホを取り出し、信頼できる友達に電話を掛けた。

「はい」

 落ち着いた杏子の声が聞こえてくる。

「杏子ちゃん? わたし、夏野小麦。いま時間ある?」

「小麦! いまお昼休みだから大丈夫だよ。じつはわたしも連絡しようとしてたところ」

 声音からは迷惑そうな感じは伝わってこない。電話の向こうから聞こえる笑顔らしい明るい声に、安心した小麦は用件を伝える。

「あのね、わたし、昨日会費を払ってないことに気づいて……」

「会費? 払ってるよ?」

「え? 払ってないよ?」

 杏子の返答に、覚えのない小麦は戸惑う。
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