まどわせないで
「小麦を連れて帰った長身の素敵なひとが払ってくれてるわよ」

「うそ……い、いつ?」

「うーん、お店に入ってきてすぐだったかな。小麦を追いかけるように、冬里がお手洗いのほうに向かったの見届けてすぐ」

「如月さん、そこから見てたんだ」

「なんか、めっちゃカッコイイひとじゃない! しかも、わたしが好きな韓流ドラマの吹替で聞いてる素敵な声にそっくりだったのよねぇ。声もいいなんて最高じゃん!」

「あー……はは、そうなんだ。確かにいい声してるかも」

 たぶんそれ、本人。とはいえない。

「小麦の彼氏?」

「かっ彼氏!? ち、違うよ」

 俺様の彼女を名乗るとはいい度胸してるな。
 って声が聞こえてくるようだ。

「このこのっいい男捕まえて~! 冬里が目に入らないのもわけないね」

「や、だからちが――」

「でもさ、あのあと結構大変だったよ。冬里がむちゃくちゃ不機嫌そうな顔でさ、しばらく周りが何いっても口も聞かなかったんだから」

「そうだったんだ」

 陸にあんな扱いを受けたのだ。男としてのプライドが傷ついたに違いない。

「でもモテモテなのは相変わらず。結局、女子にちやほやされてご満悦だったみたいよ。ひとりお持ち帰りしたって話だし。その容姿を生かしてすっかり遊び人って感じ」

「まぁ、機嫌直ったならよかった。最後まで不機嫌でいたらせっかくの同窓会も台無しだから。あんな帰り方したから、やっぱりちょっと気になったんだ」

「あのとき、お手洗いに行って何があったの?」

 探るような問いかけ。答えに迷って呻き声がもれた。
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