わたし、式場予約しました!
 


「はい。
 壁に引っつくようにー。

 最初は両足をひっかけてー。
 両手で、①のホールドを持ってー。

 そう。
 出来るだけ、がに股にー」

 トレーナーの次々繰り出す注文……というか、忠告に、綾子は黙々と従っていた。

 いちいち、ぎゃあぎゃあ言う自分や眞紘とは違う、意思の強さを感じた。

 綾子は慎重に、だが、一発で、上まで上がった。

「さ、おつぎは瑠可さんね」
と綾子が微笑む。

 三人で訪れたボルダリング。

 するするとこなす綾子に、瑠可はあっという間に追い越された。

「今日もう、そこまででいいんじゃない?」

 瑠可の恐がりと実力の程を知るトレーナーがそんなことを言い出す。

「いいえ、行きますっ」

 せめて、綾子さんが進んだところまで!

 そんな自分を休憩中の綾子が見ていた。

 話したいことがあるけど、話せない。

 眞紘が来る前、そう彼女は言っていた。
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