わたし、式場予約しました!
「話すなと和歩さんが言うから」

 その言葉を噛み締めながら、瑠可は慎重に足をホールドに乗せながら上る。

 たいした高さではないが、支えの不安定さから、下を見ると、くらりと来た。

 いや、上りはまだいいのだ。

 問題は下りだ。

 やはり、下を見て下りるのは怖い。

 その恐怖心から、上りさえも怖くなる。

 つい、下りるときのことを考えてしまうから。

 いやいや、考えない。

 今日は考えない。

 この後のことは考えない。

 今は、頂点目指すのみっ!

 なんとかなると、下りるときのことを考えないようにすると、恐怖心は消えた。

 最後のホールドに両手をかける。

「やった!」
「上がったっ!」

 トレーナーの人まで喜んでくれたので、周りの人もどんな運動音痴が頑張ったのかと、たいして難しいコースでもないのに、拍手してくれた。

 つい、泣きそうになる。

 冷静な人が居たら、いやいや、あんた、感激するようなコースじゃないから、と突っ込まれそうだが。
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