わたし、式場予約しました!
「縁起の悪いことを言うな」
と言いかけた和歩は、いや、と言った。

「瑠可。
 ピークじゃなくていいんだ。

 結婚ってきっと、静かに平凡に、ずっと続いていくものだ」

 和歩が言うと、その言葉が染みた。

 あの夕暮れ、和歩がそっと本を差し出してくれた。

 あんな静かな日常が。

 平凡すぎて、つまらないと人は言うかもしれない。

 だけど、そんなつまらない日常を私はなによりも欲し、失うことに怯えていたから。

 振り向くと、二組の両親が自分たちを見つめていた。

 視線を合わすと、お母さんが頷く。

 お母さんは、私の気持ちに気づいていて、なにも言わずに居てくれたのだろう。

 そして、気づいた。

 綾子の側に居る男性に見覚えがないことに。

 綾子とは関係ない人かと思っていたが、仲良く話している。

 私は自分で頑張るから、とあのボルダリングの帰りに彼女は言った。

 あれからずっと、綾子は頑張ってきたのだろう。

 ほっと胸のつかえが取れて、今度こそ、本当に泣いてしまった。

 和歩が指先でそれをぬぐってくれる。

 冷やかすような声が会場から上がった。
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