わたし、式場予約しました!
 和歩の頭に頭を寄せると、首の辺りから和歩の香りがした。

 落ち着く、その香りはもう少ししたら、きっと変わってしまう。

 綾子と結婚して、家を出たら、使うシャンプーも石鹸も、洗剤もきっと変わってしまうだろうし。

 食べ物が変われば、和歩自身の匂いも変わってしまうだろう。

 結婚した和歩と会っても、きっと、それはもう自分の知る彼じゃないと思うだろうな、と瑠可は思った。

 今だけだ。

 こうして、和歩が側に居てくれるのは。

 和歩に好きだとか言ってみればよかったのだろうか。

 いや、それは無理だ。

 私はあの家族の中に居たかった。

 お父さんとお母さんと、和歩と、あの空気の中に居たかった。

 和歩を男性として愛するというのは、あの家族の輪の中から自分が離脱することを意味する。

 私は和歩より、『家族』を選んだんだ。

 その結果がこれだ。

 だから、後悔なんかしちゃいけない。

「もう降りる」

 だから、家が近づいたとき、瑠可は言った。

 お母さんたちに見られたくないから。

 自分がこんな未練がましいことをしていることを。

 和歩はそっと降ろしてくれた。
< 85 / 203 >

この作品をシェア

pagetop