≪短編≫群青
「ねぇ、綾菜ちゃん。あれ、最悪じゃない?」


ひそひそと声を掛けてきた萌の言う『あれ』とは、大雅たちのことだろう。



「いっつもああいうこと話してるもんねぇ。おかげで、気分のいい朝が台無しぃ」

「ほんとにね」

「自分はモテるって自慢してるつもりなのかな。私から言わせれば、ただチャラいだけだと思うけどー」

「正しいね。それ、本人たちに言ってあげれば?」

「えぇ?! やだよ。関わりたくないもん」


顔全体で拒否の表情を作る萌。

私は笑った。


もう腹をくくるしかないという気持ちになったから。



「まぁ、放っときなよ。騒いでるだけで、何かしてくるわけでもないんだし」

「そりゃあ、そうかもしれないけど」

「気にしてたらこっちが疲れるだけだしさ。1年、同じクラスなわけだし、そのうち慣れるでしょ」


自分にも言い聞かせるみたいに言う私。

萌は口を尖らせながら、「うん」とうなづいた。


それと同時に始業のチャイムが鳴り響き、



「おーい、席につけよー」


熱血担任が教室に入ってきた。



「今年一年、よろしくなー。先生、厳しいぞー」


一部の生徒が笑う。

大雅はすでに机に突っ伏し、聞いちゃいない。




動物園にいるようなクラス。

調教師みたいな熱血担任。


私と、大雅。



これからどうなるのかという一抹の不安を掻き消すように、私は静かに息を吐いた。

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