≪短編≫群青
そうこうしているうちに、チャイムが鳴った。



「はーい」


声のトーンを一段高くして、ぱたぱたと玄関に駆けて行くママに呆れ返る私。

大雅のことが好きなのは、私じゃなくてママの方。



「大雅くん、いらっしゃーい。っていうか、久しぶりー」

「あれ? ママさん、今日仕事は?」

「うふふ。デートに誘われたから、お店、休んじゃった」

「マジか。ママさん、美人だから、モテまくりだな。俺でも誘いたくなるよ」

「もう! 大雅くんってばぁ!」


馬鹿か、こいつらは。


なぜかママの前でだけ優しい男を演じている大雅にも、そんな大雅を私以上に可愛がっているママにも、開いた口がふさがらない。

と、いうか、毎度のことながら、こんな会話を聞かされている方の身にもなってほしい。



「ママ! そろそろ迎えに」来てくれる時間でしょ? ほら、早く行きなよ!」


追い出すようにママの背中を押す私。

ママは背中を押されながら顔だけで振り向き、



「綾菜ちゃんってば、早く大雅くんとふたりきりになりたいのね。うふふ。ママ、気付かなかった。もう邪魔しないからそんなに怒らないでよ」


ふざけるな。

と、思ったが、もう何でもいいからとにかくさっさといなくなってほしかった。



「じゃあ、ママ、行ってくるから、戸締りちゃんとして、ふたりで仲よくねー」


高いヒールを履いて出て行くママを、私は疲労感たっぷりの息を吐いて見送った。

ドアが閉まるや否や、大雅はそんな私をクッと笑って一瞥し、



「そんなに俺とふたりきりになりたかったわけだぁ?」


と、本性を出す。

私は無視してリビングへときびすを返した。
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