≪短編≫群青
キッチンでコンロに火をつけ、鍋に残った味噌汁をあたため直す。



「野菜炒めでいいでしょ? シャワー浴びるなら着替えはいつものところに置いてるから勝手に取って」


私はいつの間に、大雅のオカンと化してしまったのか。

大雅からしてみれば、我が家は何を気にすることもなく、タダで泊まれて、食事が出てきて、その上、簡単にヤレる女もいる、便利な居所という感じだろうけど。



「おいおい、何怒ってんだよ」

「別に怒ってないから」

「怒ってるだろ。俺、バイト終わりで疲れてんだけど」

「知らないし」


大雅の家は、ほんとはかなり裕福で、お父さんは商社で海外を飛びまわっているらしいし、お母さんはお花の先生をしているらしい。

だから、母子家庭の私からすればびっくりするような額のお小遣いをもらっているくせに、なぜか家には寄り付かず、時間を潰したいためだけにバイトをしているのだ。



「っていうか、誰かさんの所為で食費だって掛かるし、ほんとお金取りたいんですけど」

「わかった、わかった。じゃあ、今度また、飯奢ってやっから」

「牛丼屋じゃん。並盛じゃん。290円じゃん」

「お前がいつもそれ頼むんだろ。だったら大盛にしとけばよかっただろうが」

「そういう問題じゃない!」


わかっているのかいないのか。

この男は、わざと言ってるんじゃないかと思ってしまう。


それでも諦めた私は、



「もう、いいからシャワー浴びてきなよ」


刺々しく言った瞬間、背中から抱き締められた。

驚いて顔だけで振り向くと、



「一緒に浴びるか?」


にやにやにやにや。

ほんとに腹が立つ男だ。



「浴びない。邪魔。離して。やけどするから」
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