≪短編≫群青
chapter 3
5月。
ゴールデンウィークも終わり、新学年になって1ヶ月が過ぎて、少しばかり落ち着いてきた頃。
目を輝かせながら近付いてきた萌は、
「ねぇ、綾菜ちゃん。私の友達の男の子がね、プリクラ見て、綾菜ちゃんのこと紹介してほしいって言ってるんだけど」
「えー?」
めんどくさい。
最初に思ったのは、それだった。
わかりやすく嫌がっている私を見た萌は、肩をすくめ、
「綾菜ちゃんさぁ。いつもそういうの、興味なさそうだよねぇ」
「うーん」
「カレシほしいなぁ、とか思わない?」
思わないことはない。
でも、いつも勝手に我が家にやってくる大雅のことを考えると、二の足を踏んでしまう自分がいる。
それはつまり、カレシより大雅を優先しているということになるわけで。
認めたくないし、もちろん誰にも言えるわけはないのだけれど。
曖昧にしか笑えない私に萌は、
「綾菜ちゃん、美人なのにもったいなーい」
と、口を尖らせていた。
その時、始業のチャイムが鳴り響いた。
しぶしぶと自分の席に戻って行く萌に、少し安堵している自分もいて、何だかなぁ、と思ってしまう。
ぼうっと窓の外を眺めていたら、
「じゃあ、今日は、授業の前に席替えをするぞー」
担任の一声に、歓喜したりブーイングしたりと、騒ぐクラスメイトたち。
私は内心で、だったらついでにクラス替えをしてよと思いながら、ため息をついた。