≪短編≫群青
「綾菜ちゃんさぁ。席替えのことは仕方がないと思って諦めて、別の場所で楽しいことを見つけた方がよくない?」

「……別の?」

「そう。たとえば、カレシ作るとかさ。恋したら、隣の席が誰であろうと気にならなくなるでしょ?」


何なのかと思いきや。

萌の提案に私はこめかみを押さえ、



「またその話?」

「だって、私、綾菜ちゃんのこと大好きだから、幸せになってほしいんだもん」


そんな風に言われると、無下に断ることもできない。

ひるんだ私に、萌は前のめりになり、



「ちなみに、綾菜ちゃん、どういう人がタイプ?」

「うーん」


とりあえず考えてみたのだが。



「優しくて爽やかな人がいいね。チャラついてなくて、できれば部活にのめり込んでて汗臭い感じの」


大雅とは真逆の人がいい。

答えた私に、萌は驚いたように目を丸くし、



「何か、意外。似合わなくて笑っちゃう」


失礼なやつめ。

自分から聞いておいて、萌はほんとに声を立てて笑っていた。


私は不貞腐れ半分ながらも、



「とーにーかーく、似合わなくても何でも、私はそういう人がいいの。そういう人じゃなきゃ嫌だし」

「でも、現実はそう単純じゃないと思うけどなぁ」

「え?」

「理想と、実際に好きになる人のタイプが同じだとは限らないって話だよ」


だとしても。

大雅みたいなのじゃないなら、何だっていい。

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