≪短編≫群青
ガチャガチャと、玄関の方から何か物音がした。



強盗だろうかと思った。

が、恐怖に震えるほどの余力もなかった。


どうせ死ぬなら強盗に殺されるのも同じようなものだと、再び目を閉じかけた時、



「綾菜ー」


ガチャリと私の寝室のドアを開けたのは、大雅だったから驚いた。

強盗じゃなかったことより、何で大雅がいるのかと、私は目を見張る。



「ママさんから電話もらって、お前が熱出したって聞いて。でも、ママさん、出掛けてて看病できないからって俺が様子見るように頼まれて」


大雅は「ほら」と言いながら、手に持っていた買いもの袋をローテーブルに置いた。

中には、見えるだけでも、ゼリーや清涼飲料水、サンドイッチや冷却シートなどが入っている。


大雅はベッドサイドに腰を下ろし、



「大丈夫か? すげぇ汗だけど、熱、何度だ?」


と、私の顔を覗き込んでくる。

私はかすれた声を絞った。



「……何、で……」

「ん?」

「……北女の、子は……」

「あぁ、あのブスか」


大雅は事もなさげに言う。



「行ったよ、一応。でも、途中でママさんから電話かかってきて、綾菜の方が心配だったから、帰ってきた」

「………」

「つーか、逆に帰る理由ができて、ありがたかったし。向こうも、俺の態度で諦めがついたんじゃね? だから、お前が気にすることじゃねぇ」

「馬鹿じゃん」


私は枕に顔をうずめた。

熱の所為で弱気になっている時に、大雅が北女の子との約束を反古にしてまで私のところに来てくれたというだけで、嬉しさと安堵に泣きそうになってしまったから。
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