≪短編≫群青
「まだ熱ぃな」


そんな、薬飲んですぐに熱下がるわけないじゃん。

と、思ったのに、言葉が出ない。


大雅の瞳の中に、私が映る。



「お前さぁ、早く回復しろよな」

「ヤレなくて困るから?」

「まぁ、それもだけど。でも嫌なんだよ。女が弱ってるのとか泣いてるのとか」


あぁ、だから大雅は、嫌々ながらも北女の子の要求に答えたのか。

私じゃなくても、『女』なら誰でも。


ふと湧いた醜い感情に、自分で驚く。



「けどさ、綾菜じゃなきゃ、ここまでする気にはならねぇけどな」


なんて無自覚で、なんて残酷な言葉だろう。


大雅は私の頬に手を添えた。

冷たくて気持ちがいいと思った。



「だから、早く治せよ」


柔らかい顔をして、大雅は笑う。



鼓動が速くなるのがわかる。

それが熱の所為ではないことも。


自分自身の中にずっとあり続けて、それでも目を背けてきた想いが、次第に大きくなっていく。



涙が出そうなほどに、切なくなった。



「大雅。今日、ありがとね」


呟いたら、大雅は「おう」とだけ返してきた。

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