≪短編≫群青
そのあまりの勢いに圧倒された私は、思わず「はい」という言葉が口をついた。

瞬間、市井くんの顔がぱあっと明るくなり、



「あ、ありがとう。俺マジで嬉しい」


今にも踊り出しそうなのが誰の目にも見て取れるようだ。

でも今度は急に恥ずかしくなったのか、



「えっと。じゃあ、そんな感じで。呼び止めてごめんね。またね」


嵐のように去っていく市井くん。



完全なる言い逃げ。

ってか、今朝の萌の話とちょっと展開が似てる気がする。


私はしばらく考えを巡らせた後で、何で『はい』なんて言ってしまったんだろうかと今更思ったが、もう遅かった。



ため息を吐き、荷物を手に、私も教室を出た。



学校からの帰路で、やっぱりどうしたものかと思いながら、私は携帯を取り出し、萌に電話を掛けた。

事の顛末を話した私に萌は、「えー!」とか「ひゃー!」とか言いながら、



「で、どうすんの、綾菜ちゃん」


と、答えばかりを求めてくる。

けれど、私はそれがわからないから困っているのだ。


「うーん」とうなる私に萌は、電話口の向こうでため息を吐き、



「市井くんって確か、バスケ部でイッチーって呼ばれてる人だよね」

「そうなんだぁ?」

「おもしろくて普通に優しいから、誰からも人気で友達多い人だよ」


萌は一体どこからそんな情報を得ているのか。

他人事のように素直に関心する私に萌は、またため息を吐くと、
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