≪短編≫群青
「私はいいと思うけどなぁ。悪い人じゃないと思うし、それにほら、前に綾菜ちゃんが言ってたように、優しくて爽やかで、チャラついてなくて、部活にのめり込んでるタイプじゃん?」


あれはただ、大雅と真逆な人を言ったまでだったのだが。

もちろんそうとも言えないまま私が黙っていると、



「シュウのことにしてもそうだけど、色々喋って仲よくなってみたら違った一面が見えてきたりするしさ。そしたらまた綾菜ちゃんの感情だって変わるじゃん?」

「………」

「イッチーくんだってそれから考えてくれればいいって言ってるんだし、とりあえず遊んでみてからでもいいと思うんだよねぇ」


体だけの関係でしかない大雅。

対して、真っ直ぐな好意を向けてくれる市井くん。



「綾菜ちゃんに好きな人がいるなら別だけど、そうじゃないなら、私は応援したいよ」


大雅とのことを知らない萌にしてみれば、当然そう言うだろう。

私が逆の立場でも同じことを言うと思う。


けど、でも。



「何かさ、いきなりのことでびっくりしすぎちゃって」

「わかる、わかる」

「私、告白されるのなんて慣れてないしさぁ」

「でもさ、押し倒されて答えを迫られたわけでもないんだし、ゆっくりでいいと思うよー」


不意に脳裏をよぎったあの熱帯夜の出来事。

「あ、キャッチだ」と言った萌は早々に電話を切ってしまった。


何だかもう、どうしていいのかわからなくなって、私は泣きそうになりながらその場にうずくまった。

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