≪短編≫群青
大雅は笑う。

笑いながら、思い出すように目を細め、



「でも、確かに純粋で可愛かったよ、あの頃の綾菜は。今とは大違いだな」


誰の所為で。

ってか、あんただって昔と大違いじゃない。


けれど、言えばまた可愛げがないなどと言われそうで、言葉を喉元で止めて私は、肩をすくめてアイスを冷凍庫に移した。



「今まで何やってたの?」

「ん?」

「今朝、すぐに帰ったでしょ? あれから何やってたのかと思って」


「あぁ」とうなづいた大雅は、



「家帰ってた」


と、言った。

今日の大雅は珍しいことずくめだなと私は思ったが、



「家帰ったら、おふくろがいて、泣いてた」

「え?」

「で、まぁ、おふくろと久しぶりに色々話したりとか?」


何を話したの?

と、聞きたかったけれど、でも大雅の顔がわずかに悲しそうなものに変わっていたから、私なんかが深く立ち入ることはできない。


が、すぐにまた大雅は笑い、



「そうだ。園山がすげぇ電話してくるんだけど、うぜぇから着拒してやったよ」

「教室でもイチャイチャしてたよ、あのふたり」

「マジか。見たら気分悪くなりそうだな」

「まぁ、付き合いたてのカップルなんてそんなもんじゃないの。まわりが見えなくなるっていうか」

「俺には理解不能だけどな」
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